【解除の典型例】
不動産賃貸借においては、解除のケースのほとんどは貸主が借主の債務不履行を理由にして行うものである。
というのも、貸主の義務は、基本的に物件を借主に貸して使用させれば済むのに対して、借主の義務は、賃料の支払いなど継続的な金銭の支払いのほかにも、使用目的に従って使用する義務など多岐にわたっているため、借主は貸主と比べて圧倒的に契約違反が発生しやすいからである。
以下、借主の債務不履行によって貸主が解除する典型例である、➀賃料不払い、②賃借権の無断譲渡・賃貸目的物の無断転貸、③使用目的違反(用法違反)の3つの類型をみていくことにしよう。
賃料不払いに基づく解除
賃料不払いを理由とする解除については、通常、1ヶ月程度の賃料不払いでは、信頼関係が破壊されたとまでは評価できず、解除は認められない。
では、どの程度の滞納があれば解除は認められるだろうか。
借家契約の場合
借家契約については一般的に3ヶ月程度の滞納が1つの目安になる。
とはいえ、信頼関係が破壊されたかどうかは、単に賃料を何ヶ月滞納したのかといった事情のみならず、貸主と借主の間で信頼関係を揺るがすあらゆる事情が考慮されるため、3ヶ月以上滞納しているのに解除が認められないケースや、逆に3ヶ月の滞納がなくとも解除が認められたケースもある。
前者の例としては、神戸地裁昭和30年1月26日判決が挙げられる。この事案では、借主は8ヶ月分の賃料を滞納した事案であったが、裁判所は、①これまで約20年間にわたり賃料の滞納はなかったこと、②借主の長男が病気になり、多額の治療費を必要としたため資金不足に陥ったという、賃料を滞納するのにやむをえない事情が存在したこと、③貸主が滞納分の支払いを催告した支払期日(1週間以内)から4、5日遅れて滞納分全額を持参し提供したことなどの事情を考慮し、いまだに信頼関係は破壊されていないとして、貸主による解除を認めなかった。
逆に、後者の例としては、東京地裁平成15年12月5日判決が挙げられる。この裁判例は、契約書の規定では2ヶ月分の賃料の滞納が解除事由となっていたが、1ヶ月強の滞納の事実でもって解除を有効としたものである。同事案では、①借主はほぼ毎月のように賃料支払いの滞納を繰り返していたところ、貸主と借主との間で「半年後までに賃料の支払いを正常化する」ことを約束したのに、借主はその約束に違反してその後も支払いの滞納を繰り返したこと、②貸主が借主に契約の解除か新たに契約を締結するかを話し合いたいと申し込んだのに、借主は一方的に話し合いを拒絶したことなどの事情を重視し、たとえ1ヶ月強の滞納とはいえもはや信頼関係は破壊されていると判断し、上記の結論を下した。
以上のように、貸主としては、実際に借主に対して解除を主張する際には、滞納期間のみならずその他のさまざまな事情を考慮し、もはや信頼関係が破壊されたと評価されるレベルにまで至っているか否かを確認する必要がある。
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