【賃借権の譲渡や賃貸目的物の転貸】
まず、借主の行為が賃借権の譲渡や賃貸目的物の転貸に該当することが必要である。これらはいずれも、賃貸目的物について、借主が第三者に対して使用させ、しかもその使用の仕方が借主から独立した態様で行われていることをいう。
前者の賃借権の譲渡は、たとえば貸主Aから借主Bが不動産を借りて使用していたところ、借主Bが第三者Cに不動産を使用させた上で、借主Bが賃貸借の関係から完全に離脱する場合である。こらに対し、後者の賃貸目的物の転貸は、いわゆる「また貸し」であり、すなわち借主Bが第三者Cに不動産を使用させつつ、Cから賃料をもらうなど、借主Bが中間に介在する場合である。
「譲渡」や「転貸」に該当するケース
【借家の場合】
借家の場合は、譲渡・転貸のどちらのケースもありうる。たとえば、飲食店として建物を借りて営業したいた借主Bが、売上が上がらないため、物販店舗を営む第三者Cに建物を「また貸し」し、Cから賃料を得て、その中からAに対し賃料を支払っているような場合は、典型的な「転貸」に当たる。
あるいは、上記の例で、借主Bが自らは完全に引退するとして、店舗の内装造作も含めてすべてCに売却し、以後はCが直接Aの口座に賃料を振り込んで支払うような場合は、賃借権の「譲渡」に該当する。
「譲渡」や「転貸」に該当しないケース
以上のように、借りている不動産を第三者に使用させると、ほとんどの場合賃借権の「譲渡」または賃貸目的物の「転貸」に該当するが、例外的にこれらに該当しないケースもある。
たとえば、そもそもCが完全に独立した第三者とはいえないようなケースである。具体例として、居住用の建物の借主Bが、配偶者Cや親戚Dと同居して建物を使用しているケースが挙げられる。このような場合、CやDは借主Bを世帯主として世帯を構成している者であった、いわば借主に従属した地位にあたるので、CやDが借主Bから独立した使用をしているとはみなされず、このケースは賃借権の譲渡や建物の転貸には当たらない。
貸主に「無断」で行ったこと
無断譲渡や無断転貸による解除のもう1つの要件は「無断」、すなわち「貸主の承諾を得ていないこと」である。
借主による賃借権の譲渡や賃貸目的物の転貸の時点で承諾を得ていないことは明らかである場合が多いが、よく問題となるのは、貸主が第三者への譲渡や転貸をその後黙示的に認めていたのではないか、すなわち「追認」があったのではないかと考えられるケースである。
典型的な場面としては、貸主Aが第三者Cの使用(つまり、直接の借主Bによる賃借権の譲渡や不動産の転貸がなされていること)を認識したにもかかわらず、借主Bに対し一切の異議を述べなかったような場合には、追認があったとして「無断」であると認められなくなってしまう可能性が高い。
では、どのくらいの期間、異議を述べない場合に追認があったとみなされてしまうのであろうか。この点につき裁判例は画一的な基準を示しておらず、事案ごとの判断となるが、参考になる裁判例として大阪高裁昭和29年7月20日判決を紹介したい。
同裁判例は、借主Bに住居として建物を貸していた貸主Aが、Bから賃借権の譲渡を受けて新たに入居した第三者(以下「新入居者C」という)がいることについて、当該事実を知ってから1ヶ月半後に「賃借権の譲渡を認めない」と異議を述べたものの、追認があったと評価され解除が認められなかった事案である。裁判所は、貸主Aが異議を述べるまでの期間が新入居者Cの存在を知ってから1ヶ月半と短いものの、同時案では新入居者Cが、転居してくる前後に貸主Aから賃借権の譲渡の承諾を得ようと何度もAを訪問するなど十分に手を尽くしていた(なお、貸主は病気のため面談はできなかった)という事情を考慮し、貸主の明渡請求を退けた。
この裁判例は、借主が承諾を得ようと誠実に努力していたという特殊事情がある事案なので、必ずしも一般化することはできないが、このようにわずか1ヶ月半異議を述べなかっただけで黙示の承諾を認められた事例もあることからすると、貸主としては、借主による賃借権の無断譲渡・無断転貸をかくきんし次第、可能な限り早い段階で「認めない」と異議を述べる必要がある。
なお、「異議」の方法としては、法的には口頭でも、構わないが、後で「言った言わない」の水掛け論となることを避けるべく、内容証明郵便などを使って、借主に対し賃借権の譲渡や転貸を認めない旨の意思表示をしたことを形に残しておくことが望ましい。
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