【使用目的違反(用法違反)に基づく解除】
不動産の賃貸借契約においては、土地や建物の使用目的(用法)について制限を設けていることが多い。
貸主としては、「このような使用目的であれば土地(または建物)を貸しても良い」と考えたからこそ貸すのであり、限定した使用目的(用法)を守ることは貸主・借主間の信頼関係の基礎となっている。
さらに、具体的な使用目的が契約上明確に定められていなくても、借主が通常想定される使用方法からあまりに逸脱するような使い方をしている場合には、やはり使用目的違反(用法違反)になりうる。
使用目的違反(用法違反)に基づく解除が認められる要件としては、①「借りた土地や建物について、使用目的に違反する使い方をしていること」に加え、②それが「信頼関係の破壊に至っていると評価されること」が必要である(信頼関係破壊の法理)。
前回、記述した「無断譲渡」・「無断転貸」は、その行為自体が信頼関係を徹底的に破壊すると評価されるものであったのに対し、使用目的違反については、その使用の仕方によっては、信頼関係の破壊とまではいえないこともあることから、②の要件も別途必要となり、貸主側で証明しなければならない。
この①②の要件のうち、①については契約書の文言に照らして比較的容易に判断できるため、特に問題となるのは②の信頼関係破壊の有無てある。
以下、借家の場合、具体的にどのような場合で②の要件を満たし、解除が可能となるのかを見ていこう。
借家の場合
借家契約こ場合においても、基本的には借地契約の場合と同様に、建物の実際の使用方法に着目して、信頼関係の破壊に至っているか否かを判断することになる。
以下、解除が認められた事例と認められなかった事例でそれぞれ参考になる裁判例を紹介しよう。
【使用目的違反(用法違反)での解除を肯定した裁判例】
・東京高裁昭和59年3月7日判決
喫茶店という使用目的で貸した物件が、いつの間にかノーパン喫茶として使用されていたというケースである。この事案では、同じ建物内の学習塾に通う児童の父兄から苦情が殺到したという点も考慮して、もはや信頼関係は破壊されているとして解除は有効とされた。
・東京地裁平成3年7月9日判決
マリンスポーツ店の事務所兼店舗という使用目的で貸した物件が、実際は女性に客を接待させるクラブとして使用されていたというケース。
・東京高裁昭和60年3月28日判決
絨毯の販売やクリーニングなどを業とする会社の営業という使用目的で貸した物件が、実際は暴力団事務所として使用されていたというケース。
これらのケースはいずれも、風営法の規制の対象になるとか、反社会的勢力と関わりをもつことになるとか、周辺環境に与える影響が大きく近隣への配慮が必要になるという点で、本来想定していた使用目的とは大きくかけ離れる使用方法であることから、信頼関係の破壊が著しいと判断され、解除が認められた。
【使用目的違反(用法違反)での解除を否定した裁判例】
・東京地裁平成3年12月19日判決
「活版印刷の工場兼事務所」を使用目的として建物を貸していたところ、借主が建物について、玄関戸を木製のものからアルミサッシ製のものに変えたり、従前倉庫になっていた2階の空間の一部をベニヤ板等で間仕切りして天井を設けるなど手を加え、最終的には、「写真印刷の製版の作業所」として使用していた事案である。裁判例は、使用目的違反に該当するとしつつも、上記のような工事は簡易な変更にとどまり、原状回復が容易であることなどを理由として、いまだ信頼関係は破壊されていないと判示し、解除を認めなかった。
・東京高裁昭和50年7月24日判決
借主とその家族のみが使用する住居として貸していたのに、借主が多数の生徒が通う学習塾として使用していた事案である。裁判所は、たしかに使用目的違反には該当するとしつつも、実際に通っていた生徒数は6名と少なかったこと、畳を傷つけないよう絨毯を敷くなどの配慮がなされており、実際に建物も毀損されていなかったことなどを理由に、いまだ信頼関係は破壊されていないと判示し、解除を認めなかった。
このように、使用目的違反(用法違反)があったとしても、実際の使用方法により建物を毀損したか否か、あるいはそのおそれがどれだけあったかなどといった事情を検討し、違反の程度が小さいと判断される場合には、信頼関係が破壊されたとは評価されず、解除は認められない。
0コメント