【中途解約に伴う違約金】
中途解約は可能であるものの、違約金の支払いが義務付けられている場合な、借主はどの程度の金額まで支払わなければならないのだろうか。
たとえば、契約書の中で「借主が中途解約をする場合、貸主に対し、中途解約の申し入れをした時点から期間満了までの残存期間分の賃料相当額を違約金として支払わなければならない」などと定められている場合、仮に規定に従えば、借主は莫大な違約金を支払わなければならないケースも出てくる。
こういった「中途解約に伴う違約金の有効範囲」については、さまざまな裁判例が蓄積され、一定の考え方が確立している。
一般的な基準(原則)
中途解約に伴う違約金をめぐる問題については、東京地裁平成8年8月22日判決等さまざまな裁判例が出されているが、それらの考え方の基本的な枠組みは、いずれも中途解約によって現在の借主が退去し、次の借主を確保して新たに賃料を得られるまでの期間の賃料相当額については違約金として有効であるが、それを超える部分については、無効であるというものである。つまり、違約金と賃料の二重取りは許されないとする考え方である。
この考え方を忠実に踏襲するものとして、東京地裁平成19年5月29日判決がある。この事案は、借主が建物を診療所として使用する目的で締結した期間5年の普通借家契約において、「契約が解除された場合には、残存期間の賃料相当額を違約金として支払う」との規定が置かれていたところ、貸主は借主の賃料不払いを理由に本契約を解除し、上記規定に基づき残存期間の1年9ヶ月分の賃料相当額を違約金として求めたものである。同事案について、裁判所は、貸主が新たに借主を確保するために必要な期間は、せいぜい6ヶ月程度みるのが相当として、6ヶ月分の賃料相当額の限度でしか違約金の請求を認めなかった。
店舗や事務所の中途解約のケースでは、同裁判例のほかにも、次の借主を見つけて新たに賃料を得るために必要な期間は6ヶ月程度であると判示した裁判例があり(東京地裁平成25年7月19日判決)、一般的な店舗や事務所については、中途解約に伴う違約金は6ヶ月分の賃料相当額が1つの基準として考えられている。
住居については、住居は店舗や事務所よりも代替性に富んでいて次の借主を見つけやすいことから、賃料相当額を違約金として有効と言える期間の範囲は6ヶ月よりも短いと言われていたが、東京地裁平成21年8月7日判決は住居の契約の中途解約に伴う違約金について、1ヶ月分の賃料相当額が適当であると判断している。
なお、定期借家契約の事案についても、裁判所は上記と同様の考え方をとっており(東京高裁平成21年10月29日判決)、普通借・定借問わず、違約金に関する基準は共通している。
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