【借地借家法とはどのような法律か】
民法との違い
わが国で、土地や建物の賃貸借契約について規定する法律といえば、借地借家法である。
借地借家法は、今から約120年前に民法が制定された後に、この民法の特別法として制定されたものであり、両者が競合する場合は借地借家法が適用される。
そもそも民法の中にはわれわれが私人として関わるさまざまな契約関係が規定されており、たとえば「売買」「贈与」「請負」などと並んで、「賃貸借」についても独立の章が設けられて細かく規定されている。
120年前の民法の制定当時は、不動産の賃貸借については、他の動産等の賃貸借と同じように民法の「賃貸借」に関する規定をそのまま適用すれば足りると考えられていた。
それがどういう事情の変化でわざわざ借地借家法が制定されるに至ったのであろうか。
それは民法に委ねていると、不動産の借主が一方的に虐げられるという不公平な状況が後を絶たなかったからである。
具体的に言うと、民法という法律は、私法の一般法というだけであって一般常識と適合した世界観を持っている。
たとえば、民法の世界観は、約束したことは守らなければいけないというものであって、約束を破った者は、その約束違反(債務不履行)を問われて、契約を解除されたり、損害賠償義務を負担するなどの制裁を受ける。
こういった民法の考え方は、当事者が対等な立場で契約ルールを作っていくことができる場面であれば、非常によくマッチし公平なのであるが、契約が強者と弱者の間で取り交わされる場合では様相は一変する。
そのような関係の下では強者がルールを構築し、弱者は否応なくそれに従うことを強いられるからである。
不動産賃貸借の場面に目を移すと、我が国では、国土が限られているため、昔から不動産所有者が大きな力を持つ反面、借主は圧倒的に弱い立場に置かれてきた。
借主がそのような契約内容では嫌だと思ったとしても、地主や大家から「それではあなたに貸さない」と言われればのむしかなかったし、長く借り続けたいと思っても「1年しか貸さない。それが嫌なら契約の話はなしだ」と言われればその条件を受け入れるしかなかった。
そのような状況に対して、「約束したことは守りなさい」という民法の原則的なルールだけでは弱い立場の借主を守ることは出来ない。
そのような考えから生まれたのが借地借家法である。
なお、借地借家法の前身である「借地法」・「借家法」・「建物保護に関する法律」は明治、大正時代に制定され、この3つの法律は、平成3年に借地借家法に一本化された。
借地借家法と似た背景をもつ民法の特別法としては労働法がある。
労働契約においても、雇う側の方が雇われる側よりも圧倒的に強い立場にあるため、民法の世界観では労働者に過酷な状況が頻発する。
そこで労働法が制定され「最低労働基準の設定(最低賃金の設定・労働時間の制約等)」や「解雇の制限」といった条項が定められた。
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